子どもたちへのまなざしは常に真剣。試合中も立ったまま応援する

数年前に脳梗塞で倒れた夫の介護と両立しながらのチーム運営。「疲れを感じることはありませんか?」と尋ねると、「いまも何時間でもノックして、家に帰ったらすぐ晩ご飯の下ごしらえして、旦那を風呂に入れますけど、しんどいと思ったことないです」と言い切る。朝起きた瞬間から食事の時間以外は座ることがない、とも。

ちなみに夫に口答えしたことは一度も(!)なく、「父ちゃんが何か言うたら『はいっ』と動く。(動いても)減らん体は理屈なしに動かせばいいだけ。だからうちには喧嘩というものがありません」。安子さん曰く「こちらが気持ちよく動いていたら、相手は自ずと感謝する」。いまでは夫も安子さんに「母ちゃん、ありがと」の言葉を惜しまないとのこと。

現在、リトルウルフの総監督を務めるのは三男の徹さん。きょうだいのなかで唯一、安子さん夫婦の近くに住んでいる。「『子どもは手をかけるんじゃなくて手間をかけて育てるんや』と教えられました」という徹さんは、コロナ禍から子どもたちの練習や試合を守ろうと、この1年を過ごしてきた。「子どもが成長する場をなくしたくないんです。運動場での新型コロナウイルス感染は1件も出ていません」。まっすぐな口調に安子さんの姿が重なる。

最後に、安子さんに「ここまでできるのはなぜ?」と尋ねた。考える間もなく、「子どもが伸びていくのが目に見えてわかる。それが楽しくて仕方ないんです」。知恵や技術を与える一方で、子どもの成長から元気をもらう。80歳、安子さんのパワーが尽きない理由はここにあるようだ。


ルポ・おばちゃん力、ここにあり
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