ごまかさない、それが彼女の生き方の流儀だから

21年11月、琵琶湖畔を巡る1泊の旅に出た。

腰痛を抱える仲間が泣く泣く留守番に回ったが、久々に4人一緒の旅である。目の前で輝く湖に向かって、「コロナ飛んで行け!」と心の中で叫んで、思い切り深呼吸した。

夜になって景色が見えなくなると、認知症の友は「ここはどこ?」と繰り返したが、表情に不安の影はない。

きっと見慣れた顔が並んでいるからだと、少しうれしかった。

土曜サロンの常連さんから、彼女の変化について遠慮がちに問われることがある。

そんなとき私たちはごまかさない。病気を知られたくないから人前に出ない、それは彼女の生き方の流儀ではないからだ。

2022年が明けた。私たちの負担を思いやって、介護事業所から「年末年始はショートステイでお預かりします」と提案があった。

私たちは親切なその申し出を辞退して、みんなでささやかに新年を祝うことにした。

元旦は、関西風の白みそ仕立てのお雑煮とお節。2日は魚や野菜をたっぷり使った手巻きずしを楽しんだ。片付けをしているときに、仲間の1人がぽつりと言った。

「もし、彼女が近居をせずに1人でいたら、今頃どうなっていたのかな」

顔を見合わせ、しばし黙り込んだ。自分のときはどうなるのだろう。不安が一瞬、胸をよぎる――。