意外に知らない目の動き。日常生活にも活かせる仕組みとはーー。(提供:写真AC)

唾液はどこから出ているのか? 目の動きをコントロールする力は? 人が死ぬ最大の要因とは? おならは何でできているのか? 私たちの体は謎だらけ。その不思議に迫った、外科医の山本健人さんによる累計16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』から一部を抜粋、編集してお送りする本連載。第3回は、「意外に知らない目の動き」。私たちがものを見ることができるのはなぜでしょうか。

視界を司るのは、網膜のたった0.3ミリの部分

今あなたの目には、この文字だけでなく、周囲の広い範囲が映っているだろう。目を動かさなくても、上下左右の景色は目に入っているはずだ。

では、今読んでいる文字に視点を固定し、目を動かさずに他の文字を読もうとしてみてほしい。おそらく、ぼやけて読めないのではないだろうか?

そしてあなたは、視線を動かさない限り、「文字を読める範囲」が非常に狭いことに気づくはずだ。私たちの視野は、テレビ画面に映る景色のように、隅々までくっきり映し出されているわけではないのだ。

目のしくみを知っていると、この理由がよくわかる。カメラにたとえてみよう。レンズに相当するのが水晶体(中心部は瞳孔)、しぼりが虹彩、フィルムが網膜、カメラに装着するレンズキャップがまぶたである。ちなみに、上まぶたと下まぶたの裏面から白目の部分を覆う膜は結膜、黒目の部分を覆う膜は角膜という。

私たちが景色を認識するのは、網膜に映った映像が脳に伝わるからだが、実は網膜全体ではっきりものを見ているわけではない。網膜の中心部分の、ほんの一点だけで見ているのだ。

この一点とは、黄斑と呼ばれる部位の、さらにその中央、「中心窩」と呼ばれる点である。この部分の直径はわずか0.3ミリメートルしかない。ここから少しでも外れると、視力は大きく低下する。私たちの視力は、この狭い部分に依存しているのである。

普段このことに気づきにくいのは、無意識に視線をせわしなく動かし、常に対象物を中心で捉えているからだ。