体の仕組みを知り、普段の生活を快適に
実は、この興味深い現象を学んで以来、私はこれを日常生活に生かしている。夜中に尿意を催し、暗い寝室からトイレに向かう、といった経験は誰しもあるだろう。
このときに、廊下の電気をつけて両目を光にさらすと、あっという間に明順応が完了してしまう。再び暗い寝室に戻ると、部屋の中が見えにくくなってしまうのだ。
そこで、片目をつむった状態で電気をつけ、一方の目は暗順応を維持したまま、もう一方の目を明順応させる。すると、暗い部屋に戻って両目を開けたとき、片方の暗順応が生きているため部屋の中をスムーズに移動できるのだ。
もちろん、片目をつむって歩くと距離感がわかりづらいので注意は必要だが、意外に便利な方法である。足元がよく見えなかったために、寝室のベッドに小指をぶつけて痛い思いをすることもない。
むろん、もう一度寝室の電気をつければいいではないか、といわれれば反論のしようもない。だが、臓器の持つ特性を知り、それを大いに利用し、その成果を自ら体感することは、この上なく心地よいものである。
ちなみに、アニメや映画で出てくる海賊は、決まって片目に眼帯をしている。その理由については諸説あるようだが、一説によると暗順応を維持するのが目的なのだそうである。
明るい甲板から暗い船倉に入った際、眼帯をずらすだけで中の様子がわかるというのだ。明るい場所で作業している最中に突然船倉で戦闘が始まっても、暗順応が生きている片眼を使えば困ることはない。
確かにこれが真実なら、目の特性を生かした便利なテクニックだといえるだろう。
【監修】沼尚吾(京都大学医学部附属病院眼科・一般社団法人MedCrew代表理事)
※本稿は、『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(著:山本健人/ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(著:山本健人)
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