絶対におかしいのに、私は流れに逆らえなかった

提案されるたび、2〜3回はやんわり断って持ち帰った。

その間にも友人に話を聞いたり自分で調べてみたりしたが、まったく知らない病院でお世話になるより、私の口腔内をよく知るかかりつけ医に任せるのが適切な気がしてきた。積極的選択というより、消極的消去法である。

ところで。先日、とある女友達がとても響く言葉をくれた。「兆しのうちは引き返すこともできるが、流れになったらもう誰にも止められない」と。

私のインプラント治療はまさにこれだ。漠とした不安をぬぐえぬまま、流れに乗ってしまった。説明は丁寧だったと思う。手術の日がやってきて、私は祈るような気持ちで診察台に横たわった。

結果、人工歯をかぶせるために上顎に埋め込まれたビスが、歯茎の付け根からボコッと飛び出しているのがハッキリわかる酷い仕上がりになった。明らかにおかしかったので、腫れが引いてすぐ、私は先生に相談をした。

先生はなんだかモゴモゴと口ごもり、レントゲン写真を見ながら「ちょっと曲がっているけれど、これでも問題ない」と言った。

絶対におかしいのに、私は流れに逆らえなかった。「これでいきましょう」というムードを壊すのが怖かった。次号に続きます。


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