2021年夏の東京五輪野球日本代表は8月7日に決勝・米国戦を迎え、先発投手は森下暢仁選手に。稲葉監督が金メダルがかかった大一番をプロ2年目の若い森下選手へ託した理由とは(写真提供:PhotoAC)
2021年に開催された東京オリンピックで、野球日本代表が37年ぶりに金メダルを獲得しました。その代表チームを率いたのが稲葉篤紀監督です。現役としては95年にヤクルトスワローズへ入団。05年に日本ハムファイターズへ移籍、14年に引退するまでに首位打者、最多安打のタイトルを獲得。ベストナイン、ゴールデングラブ賞にはそれぞれ5回選出された名選手です。日本代表の監督を務めた17年からの4年間で、稲葉さんはどのようにチームを強化してきたのでしょうか。決勝「米国戦」を検証しながら、その歩みを振り返ります。

気合の入った投球を見せてくれた森下

決勝(対アメリカ戦。8月7日、横浜スタジアム)の先発は、プロ2年目の森下(暢仁)に託しました。

初のトップチーム代表ですが、メキシコ戦でも5回2失点と試合を作りましたし、彼の強い球とカーブの緩急は米国打線にも有効だと思いました。非常にプレッシャーがかかる中での投球でしたが、長い回というよりは一人ひとりをしっかりと抑えていくつもりで投げてほしいと思っていました。

建山コーチが登板について正式に伝えた後、私は昨日の練習でキャッチボールをしている森下に声をかけました。

「五輪の決勝で投げられる機会なんてないだろう? 楽しんで思い切って投げてくれればいいよ」

「いやあ、まあ、頑張ります」と優しい人柄の出る感じで答えてくれました。でも、「明日、やってやろう」というような燃える気持ちも伝わってきました。

森下は期待通り、気合の入った投球を見せてくれました。

五回を終えてわずか3安打1死球で無失点、球数は81球。建山コーチ、村田コーチ、甲斐とも話し「カーブが抜け始めている」という兆候が少し見えてきたので、点は取られていませんでしたが、交代を決断しました。

後から建山コーチが聞いたところ、森下本人も「五回でいっぱいいっぱいだった」ということでした。

決勝はどっちに転ぶか分かりません。米国も日本も、金メダルを取りたいのはお互い様。私の中で、継投だけは絶対に間違えてはいけないと思っていたので、森下は良いタイミングの交代だったと思います。