筆者の関容子さん(右)と

絶えず好奇心をもって高みをめざす

1988年、私が笈田さんの舞台を観るのは約30年ぶりのことだった。東京・京橋に開場したばかりの銀座セゾン劇場(のちのル テアトル銀座で、今はもうない)で、ピーター・ブルック演出による『マハーバーラタ』。(これはずっと後に歌舞伎座で尾上菊五郎や菊之助によって上演されたが、演出が違うまったく別の芝居のようだった)

笈田さんの役は、崇高な雰囲気の武術の達人ドローナと、大袈裟な動きが滑稽な悪役キッチャカの二役。最初にドローナの役で登場したときの鍛え抜かれた痩身を見て、文学座時代とは別人のような成長ぶり、と思ったものだ。

──ドローナの死ぬ場面も、卓抜な演出でしたね。大きな壺に血に見立てた赤い果汁がいっぱい入ってて、地面の上にどっかと座したドローナが、両手でグーッと持ち上げて頭からかぶる。このときにもう魂は肉体から抜け出していて、それから首を斬られると静かに前へ倒れる。

こんなシュールな演出を考えつくなんてすごいなと思った。先に台本を読んだときに思いも及ばなかった演出のアイディアを僕は随所に見せられて、これはどうやってもかなわない、と思いましたね。

ピーター・ブルックに出会ったことで、クリエーションとはどういうものか、過去にとらわれず、絶えず好奇心をもって高みをめざすことを学びました。しかし師匠というのはあんまり偉大だと、弟子は勇気を失いますね。