映画『横道世之介』(13年公開)の監督・沖田修一さん(左)と、同作品で横道世之介役を務めた高良健吾さん(右)
2022年5月25日に文庫『おかえり横道世之介』(吉田修一・著、19年刊行の単行本『続 横道世之介』を改題の上、文庫化)が刊行される。これを記念し、映画『横道世之介』(13年公開)の監督、沖田修一と、同作品で横道世之介役を務めた高良健吾の対談が実現。クランクインから丸10年、今もなお多くの人に感動を与える名作はどのように生まれたのか。笑顔とハプニングに溢れた撮影当時の様子を語ってもらった。(撮影◎本社写真部)

<前編よりつづく

奇跡が待っている現場

沖田 スタッフさんたちも印象的でした。僕はけっこう初めましての人が多くて。こだわりの強い人ばかりだったので、彼らに必死にくらいつきながらやっていた。フィルム撮影が初めてだったから、現場ではモニターの前にいないで、目の前で見てました。

高良 そのせいで、沖田さんの笑い声が入っちゃってNGになったりしましたね。

沖田 たまに撮ってること忘れて笑っちゃうんだよね。(笑)

高良 確かに自分たちも演じながら笑っちゃうことがありました。なんだか奇跡的なハプニングが待っている現場だったんです。例えば、クリスマスのシーンでは僕が飛ばしたクラッカーの中身が、ちょうど吉高さんが開けたクラッカーの中に入ったり。それで「入りましたわ!」「すごい!」って言ったのがちょうど本編でも使われています。当時、自分は演じているとき、「来い、何か起きろ」と待っていました。何が来て欲しいかは分からないんですけど、この現場なら何か起きるだろうと思っていました。

沖田 なるほど、それは分かる。

高良 でも世之介の撮影が終わって、世の中からも評価をしていただいた後に、このまま「待ち」の姿勢で演技を続けても長くはやっていけないんじゃないかと感じました。役者として変わろうと思うきっかけになる作品だったのは間違いないです。それからは「待つ」というより「呼ぶ」という姿勢で演じるようになりました。でも、なかなかうまくいかなくて、今もまだ模索中ですね。