「僕も作るときに、いつの時代も大学1年生の気持ちは変わらないんじゃないかって思っていて。それであえて、作中に年号はいれなかった」(沖田さん)

世之介は「人生で疎遠になった人たちの代表」

沖田 確認したんだけど、ちょうど10年前の今日(対談収録日:3月25日)クランクインしたんだよね。公開は2013年で、震災の2年後。まだ世の中は暗かったかもしれない。

高良 僕、公開当時のインタビューで「この時代だからこそ観てほしい」って言っていた気がします。そういう意味では、今の2022年でもその気持ちは変わらないかもしれません。

沖田 そうだね。僕も作るときに、いつの時代も大学1年生の気持ちは変わらないんじゃないかって思っていて。それであえて、作中に年号はいれなかった。今の大学生は直接友達と会う機会は減って、オンライン飲みとかをしてるのかもしれないけれど、やっぱり大した会話はしてないんじゃないかな(笑)。この後も映画を観てくれる人が感じることが、ずっと変わらないでいてくれたら嬉しいけどね。

高良 世之介自身もずっと変わらないんでしょうね。続編の単行本の帯に「横道世之介は僕にとってのヒーローです」って書いたんです。綾野くんが演じた加藤のセリフで、「世之介に出会って得した気分」という表現がありました。

出会った人自身を大きく変えたわけじゃないけれど、関わったことによって何かちょっといいことがあって、それがみんなの胸に残っている。でも変にいいことを言うわけでもないし、人を裁かない。それが自然体でできている。こういうヒーローがいてくれたらいいなって思うんです。

沖田 そうだね。世之介については、僕は以前「疎遠になった人たちの代表だ」って言ったんですよね。中学校、高校、大学とか、人生に区切りがついていくうえで、理由もなく疎遠になった人たちが誰にでもいます。今は会わなくなったけれど、その人たちとの出会いがあって自分が形成されていることは間違いない。だから、みんな世之介に何か感じるところがあって、憎めない。

高良 ……僕も沖田さんと全く同じ考えですね。

沖田 ええっ、なんで変えるの!? さっき全然違うこと言ってたじゃん!

高良 違うんです(笑)。ヒーローっていうのは演じた僕だから感じたことだと思うんです。映画や小説に触れた人にとっては、あんまりピンとこない言葉かもしれない。僕自身、世之介を演じたからこそ救われた部分があるんです。俳優人生でも、オファーが来るのが暗い役ばかりだったのが、明るい役が増えて楽になった部分もあるし、これをきっかけに変わろうとも思えたので。

沖田 確かに当時、「もう人を殺したくないです」って言ってたよね。

高良 人を殺すし、自分でも死ぬし、大変でした。世之介には助けられましたね。