2022年5月25日に文庫『おかえり横道世之介』(吉田修一・著、19年刊行の単行本『続 横道世之介』を改題の上、文庫化)が刊行される。これを記念し、映画『横道世之介』(13年公開)の監督、沖田修一と、同作品で横道世之介役を務めた高良健吾の対談が実現。クランクインから丸10年、今もなお多くの人に感動を与える名作はどのように生まれたのか。笑顔とハプニングに溢れた撮影当時の様子を語ってもらった。(撮影◎本社写真部)
『横道世之介』主演が決まるまで
沖田 高良くんと会ったのは、2008年に『青梅街道精進旅行』というドラマを撮ったときが最初でしたね。
高良 はい、オーディションに行ったことを覚えています。
沖田 運転免許を取ったばかりのお母さんが、息子を連れて精進料理を食べにドライブするという物語なのですが、その息子役を探していたんです。
高良 自分が19歳のときでした。もう16年前ですか。当時の僕の宣材写真が、なぜか上半身裸だったんですよね。それが決め手だったと聞いたのですが……。
沖田 そんなことないよ!(笑)確かに「ほんわかしたホームドラマなのにこんな尖った子でいいんだろうか」って悩んだ覚えがあるから、印象には残ったんだろうけれど。とにかく会ってみたら気のいい若者で、以降、何度も一緒に仕事をすることになりました。
高良 その後の宣材もなぜか服がはだけていたんですよね。
沖田 そんなにずっと露出が激しかったんだ……。その後、『南極料理人』という映画を撮ることになった際に、高良くんにちょうど良さそうな若者の役があったのでオファーして、その後も『キツツキと雨』にも出てもらって……と続いていくうちに、高良くん主演で映画を撮りたいと思うようになった。そんなときに「九州から上京してきた若者の映画」という、ドンピシャの題材が来たんです。