「僕はとにかく必死だったことばかり思い出すな。80年代の新宿を再現するために、西武新宿駅の前でアイドルのライブをやって、100人ぐらいのエキストラを集めて80年代風の格好をしてもらいました」(沖田さん)

最も撮り直したシーンとは?

高良 現場ではとにかくわいわいやっていた記憶があります。毎回いろんな人が来るし、明るかったですね。

沖田 僕はとにかく必死だったことばかり思い出すな。冒頭の新宿駅のシーンのときは特に緊張しました。80年代の新宿を再現するために、西武新宿駅の前でアイドルのライブをやって、100人ぐらいのエキストラを集めて80年代風の格好をしてもらいました。

高良 懐かしい。何も知らない通行人の方々はびっくりしたと思います。吉高(由里子)さんが演じる祥子ちゃんと初めてデートするシーンも大変だったと思います。当時の下北沢を再現したんですよね。

沖田 そうそう。下北沢はもう雰囲気が変わっていて、思う画が撮れなかったので、東横線菊名駅の入り口の反対側に階段を作ったんですよ。菊名の人たちが「反対側にも入り口ができた!」と戸惑っていました。クレープ屋さんのワゴンとかも予算をかけて呼びましたが、撮ってみたら映っていなくて怒られましたね。(笑)

高良 大変だったのはやっぱり、クライマックスの雪のシーンですね。世之介と祥子ちゃんがクリスマスを祝っているときに、雪に気付いてアパートから飛び出して、外でキスするのをクレーンカメラで上から撮ったのですが、本当に何度もやり直しました。あのシーンでクランクアップだったんですけど、全然アップできませんでした。

沖田 僕もクレーンカメラで撮るとは知っていたけど、とんでもない高さのクレーンが来たからびっくりしたりして。確かに何が気に入らなかったのかは覚えてないけれど、一番やり直したかもしれないね。

高良 演じていて分からないところを、沖田さんは一緒に悩んでくれたことを覚えています。この雪のシーンに限らず、役者と同じぐらい、沖田さんも悩んで話し合ってくれました。演じる側としてはとてもありがたいことでした。

沖田 恥ずかしい。コメントしづらいですね(笑)。そういえば『横道世之介』をフランスで上映する機会があって。向こうだといいシーンで声を上げる人が多いんだけど、あの雪のシーンでは世之介と祥子がキスした瞬間、劇場で口笛が鳴ったんですよね。みんなと一緒に重ねてきた苦労が報われた気がして嬉しかったな。