今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『「ちがい」がある子とその親の物語III』(アンドリュー・ソロモン著/海と月社)。評者は書評家の東えりかさんです。

世界23ヵ国で読まれる当事者とその家族の声

本書は欧米で活躍するノンフィクション作家が10年間に300組以上の親子を取材した壮大な記録だ。2012年に出版されると数々の賞を受賞し、世界23ヵ国で刊行。日本でも3巻目がいよいよ発売となり、完結した。

「ちがい」がある子とは、Iでは「聴覚障害」「低身長症」「ダウン症」、IIは「自閉症」「統合失調症」「重度障がい」「神童」、そしてIIIは「レイプで生まれた子」「犯罪者になった子」「トランスジェンダー」を取り上げている。加えて最終章ではゲイの著者が父親になるまでの経緯を詳細に語る。

IとIIでは、病気に分類されがちな障がい(神童もまた先天的に特殊な存在としている)を取り上げるが、IIIは社会的に忌避されたり排斥されたりする存在に注目し、子どもたちに対する歴史的な背景を踏まえ当事者と家族の葛藤を丁寧に掘り下げていく。

レイプによって妊娠した女性が「産む」ことを選択した理由はさまざまだ。だが子どもを育てる中でレイプの記憶が蘇り、愛せなくなったり過度に幸せだと思い込もうとしたりすることはよくあるという。著者は戦時下のレイプで生まれた子のその後を知るためルワンダを訪れ、子どもを愛せない母親の苦しみを知る。

犯罪者になった子を持つ親の苦しみはさらに深い。米・コロンバイン高校で起きた銃乱射事件の犯人の両親は、子どもが日常的にいじめにあっていることを知らなかった。最悪の事件だが、そこまで追い詰められた子どもを助けられなかったことを悔やみ続けている。

最終章では著者が同性婚をしたのちに父親になることを決意し、生まれた子どもへの気持ちを語っていく。子と親への長い取材の果てに著者は子どもを持つことを望んだ。結びの言葉は親になった喜びにあふれていた。