一生の仕事と決めたあの日、75歳で起業

餅作りを始めたのは、定年退職した60歳のときです。それまで保育所の用務員をやっていまして、給食の調理場も手伝っていました。それで農協の婦人部の部長さんから、「無人直売店を始めるから、桑田さんも何か出品して」と頼まれたのがきっかけです。最初は粟餅を作って出していました。昔はどこの家庭でも粟餅などのお餅を手作りしていたからです。

今でも思い出すと涙が出るんですけど……。その頃、地域の女性の会の人たちと特別養護老人ホームに、粟餅を120個ほど作って持って慰問に行ったんです。ご老人たちの前で私が「これ、みなさんに喜んでもらえるかな? 食べてくださいね」と粟餅をお渡しすると、座っていたおばあちゃん2人が顔を見合わせてニコニコして、そのうち涙を流されたんです。

きっと「おらたちも作ってたなぁ」と思い出したんでしょうね。そんとき私は思いました。餅っこ一つで、こんなに喜んで涙流してくれるんだば、一生続けよう、って。

無人直売店では、ほかにも粟餅を販売する人が数名いたので、途中で私は笹餅に切り替えました。もとの作り方は母から教わった家庭の味です。試行錯誤を重ね、人様にお売りしてもいいと納得できる味に辿り着くまでに5年かかりましたね。

小豆、もち米、湧き水とか、材料は地元のもの。小豆は皮も入れます。栄養があるんですよ。母もそうでしたけど、一般的には蒸すのは一回。二度蒸しする作り方は自分で工夫して考えました。