儲からなくても、人が喜んでくれたらそれでいい

おかげさまで笹餅は評判がよく、75歳のときに起業することになりました。自分でもびっくりです。地元のスーパーの方がわざわざ足を運んでくださって、「お客さんの要望が多いから、店で販売させてください」とお願いされたんです。求められたら、そりゃあ私もやりたい。

でも、スーパーに商品を卸すには、製造元として会社登録をする必要があると。何をすればいいのかわからないので、保健所に相談に行き、いろんな手続きをして、1ヵ月ほどで営業許可が下りました。屋号は「笹餅屋」、私一人の小さな商いです。

食品を扱うので保健所の検査も入ります。私は保育所で働いていた頃、調理師免許も取りましたし、衛生面には細心の注意を払う習慣がついてましたから、その点は心配なかったです。

起業と同時に加工所も造りました。それまでは母屋の流し(台所)で笹餅を作ってたんですけど、夜遅くまで作業していると、息子家族に迷惑がかかる。別に加工所を造れば、誰にも気がねせずにすみます。ちょうど息子が母屋から少し離れた場所に倉庫を建てたので、「その横に、小さくていいから加工所を造って」と頼んだんです。

息子は私の商いに反対でした。「そんなの儲けになんないべぇ、やめとけ」って(笑)。「ずっと働いてきたんだから、ゆっくり休めばいい」とも言ってくれました。でも私が「べつに儲かんなくていい、人が喜んでくれればいいんだ」って言ったら、納得してくれたようです。

私は無人直売店で稼いだお金を15年間貯めていたので、加工所を造ってもらうときはそこから使いました。いまも運が良かったなと思うのは、その場所は水道が通っていないんですけど、井戸を掘ったら、とてもいい湧き水が出たんです。水がいいと食べ物はよりおいしくなります。