で、50歳のときにあらためて考えてみた。まだ若すぎて、合格しても誰も面白がってくれそうにない。60歳を迎えたときも、体や頭は元気そのもので、やっぱりつまらない――。

こうしてずっとタイミングを計っていたんですが、70代に入って、もの忘れが増えている自分に気がついた。この状態で入学試験に臨むのは、明らかに無謀。でも、だからこそ挑戦だし、勉強自体が認知症予防になる。ようやく条件がそろったぞと思いました。

いっそ今まで覚えてきた「何言ってやんでい、この野郎」みたいなろくでもない言葉には頭の中から出ていってもらって、大学で「自未得度先度他(じみとくどせんどた)」みたいな仏教の言葉を入れていけば、今までとは違う欽ちゃんになれる。なんだ、最高じゃないか。というわけで、73歳のときに駒澤大学仏教学部の入試に挑戦。無事合格することができました。

 

コロナ、妻との別れ、年齢の壁が押し寄せて

4年後の2019年5月、まだ取り残した単位もあったが、萩本さんは大学を自主退学した。「全力で笑いに取り組める残り時間は、そんなに長くないと感じた」のが大きな理由だ。

――単位を取るのが目的じゃなかったから、卒業にはこだわらなかった。大学には、ホントに行ってよかったと思うよ。学ぶことは面白かったし、若い友だちができて世界が広がった。新しい言葉もいっぱい覚えて、目的だった認知症予防にも少しは役立ったかな。

退学して再びお笑いに集中して取り組んでいるうちに、気がついたら80歳になっていました。いやあ、びっくりしたのはね、80代に入ったとたん、体が思い通りに動かなくなったこと。70代は、30代、40代からの延長線上。たまに咳き込むくらいで、まだまだ元気だった。

ところが80代は明らかに違う。ものを食べればすぐむせる、何でもないところでよろける、ぶつかる。極めつきは1ヵ月の間に4回も家の中で転んで頭を打って、病院のお世話になったことだな。

もう時間が経っているから先生は「治りましたね」と言うけど、治ってないよ。後遺症っていうのかな、今も転倒時の50%くらいの頭の痛みを抱えて生活しているの。自分が年をとったということに気づかないように生活してきたけれど、なんだか体のほうから「おい、いいかげん気づけよ」と言われているみたいだった。