「90歳になっても、5、6歳の時に思った『死』は厳然としてある。けれど、だからどうってことはないんです。今を生きるだけ。」

83歳で運転免許証を返納。健康でも、死は常に意識して

2022年8月には90歳の誕生日を迎える岸惠子さん。

以前、主治医に「100歳まで生きますよ」と言われたそうだが、健康の秘訣を取材陣から訊かれると「何にもしないのよ」と断言。

「寝たいときに寝て。お昼ごろまで寝ていることもあります。夜は3時ごろまで起きていて、原稿を書いたり」。

と、体や心のおもむくままに過ごすライフスタイルを明かした。

年齢なりの衰えについては、こう語る。

「人間って、能力が衰えるんですよ。89歳の私も、脳が本当に衰えたなと感じます。自分が訪ねたことのある国ですら、どこだっけ? と思うことも。知っていたはずの字が思い出せない。書こうとすると、手が震えてしまうの」

原稿は手書きをやめ、パソコンで書くようになった。

運転免許は83歳のときに返納。最近、雑誌に寄せた「高齢者の自覚」という一文によれば、83歳のころ長女に車庫入れのテストをされた。見事に車庫入れを決めたつもりが、長女は「いつもと違って2回切り返した」と指摘。街中で人を傷つけることがないよう免許返納を勧められ、決意した。

池袋で87歳の老人が運転する自動車が暴走し若い母娘が犠牲になった事故について岸さんは、「老いて劣化する自身の能力を自覚する能力が無く、それを指摘してくれる身の回りにも恵まれていなかった。不幸なことと私は思う」(岩波書店『図書』2022年5月号)と、手厳しい。

終活はしているか、死をどう思うかという報道陣の問いに、「終活は全然していません」ときっぱり。

そのうえで、「死というものについては、子どものころから思っています」と語る。

5、6歳のころ、海を見ながら父親に、「この海が終わる時、海水はどこにこぼれるの?」と聞いたことがある。父は「海は終わることがないんだよ。地球は丸くなっていて、海も陸地も全部つながっているんだ」と答えた。

「じゃあ地球の底に住んでいる人は落ちていかないの?」

「地球はもっと大きい宇宙というものに浮いているんだ。それは果てしがない」

そんな父娘の対話の直後、大好きだった母方の祖父が逝去。幼いながらに「おじいちゃんの『果てしない』は終わってしまったんだ」と感じた。以来ずっと、死を意識しているという岸さん。どんなにうれしいときも「いつかは死ぬんだ」と思って生きているという。

「90歳になっても、5、6歳の時に思った『死』は厳然としてある。けれど、だからどうってことはないんです。今を生きるだけ。昨日があるから今があって、明日があるから、今を一所懸命生きるってことだと思います」

まっすぐな目で、そう語った。

トークショーは8月12日に神奈川県立音楽堂、30日に新宿文化センター大ホールで開催される。


岸惠子 スペシャルトークショー「いまを生きる」

企画・構成・出演:岸惠子
公演日程:2022年8月12日(金)開場12:15 / 開演 13:00 神奈川県立音楽堂
2022年8月30日(火)開場12:15 / 開演 13:00 新宿文化センター大ホール
料金:6,500円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
一般発売:2022年6月25日(土)10:00~
主催:サンライズプロモーション東京 / MY Promotion
制作:スペースポンド 協力:MY Promotion
お問い合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)

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