「そのとき私の心に浮かんだのは、幼児教室でいつもお母さんたちに伝えている『理想の母親を演じる女優になりましょう』という自分の言葉です」
幼児教室を経営しながら、シングルマザーとして3人の子どもを育ててきた池江美由紀さん。末娘は、女子競泳で17種目の日本記録を保持、2016年、21年と2大会連続でオリンピックに出場した池江璃花子選手である。生徒にもわが子にも貫く〈池江式〉教育法とは。現在発売中の『婦人公論』6月号から記事を配信します。(構成=山田真理 撮影=洞澤佐智子)

<前編よりつづく

とにかく生きていてくれれば

私の教室には、遊具の「うんてい」があります。長女を妊娠中に読んだ育児書に「脳を刺激する運動のなかでも、特にうんていがいい」と書かれたものがあって、教材として取り入れたのです。

生徒の潜在能力を引き出すのに役立った実感があり、自宅のリビングにも設置しました。子どもたちは、キッチンとリビングを往復するときに、しょっちゅうぶら下がりながら移動していましたね。

それから「将来、なりたいものをイメージして絵に描いてみましょう」という課題も、教室でよく出します。璃花子は小学校低学年のときから、首に金メダルをかけて表彰台の真ん中に立っている自分の姿を、何度も描いていました。

美由紀さんと一緒にプールに入る璃花子さん(写真提供◎池江さん)

その絵に導かれるかのように、自由形とバタフライの選手として活躍してきましたが、19年2月、海外での合宿中に体調不良で緊急帰国。検査の結果、急性リンパ性白血病と診断されたのです。

家族で一番年下の、しかも一番元気なはずの現役アスリートの璃花子がなぜ白血病に――?告知を受けたときは、ただただ信じられない気持ちでいっぱいでした。