「(「美しい言葉」とは)過剰な装飾を振り落としても大丈夫な年齢になってきたこともありますが、『正しさ』を追求しすぎない、シンプルな言葉でしょうか。」

自分の感情を誠実に伝えるには

酒井 さまざまな言葉の流行りすたりがあるなかで、金田一さんが考える「美しい言葉」とは、どのようなものでしょうか。

金田一 正直な言葉、誠実な言葉だと思います。僕が好きなのは、お母さんが赤ちゃんに話しかけるときに使う言葉です。「新しいお店ができたね。行ってみようか」なんて言う。まだ言葉がわからない赤ちゃんに向かって、「伝わるといいな」と思いながら、純粋にしゃべりたくてしゃべっているわけですよね。それはとてもシンプルだし、心の底から出ているものだと思う。そういう言葉こそが最も正直で美しいんじゃないのかなって。

酒井 そうですね。あ、「そうですね」って言っちゃった(笑)。私もやっぱり……、わあ、「やっぱり」って言ってる!(笑)

金田一 ハハハ、がんじがらめになってますね(笑)。酒井さんはどう考えていますか?

酒井 過剰な装飾を振り落としても大丈夫な年齢になってきたこともありますが、「正しさ」を追求しすぎない、シンプルな言葉でしょうか。

金田一 以前、詩人の谷川俊太郎さんに質問したことがあるんですよ。谷川さんの使う日本語はおそろしくシンプルで普通の言葉なのに、初めて聞く言葉のように感じるし、洗いざらしのジーンズみたいに清潔感がある。どうして、そんなことができるんですかって。

酒井 なんとおっしゃいました?

金田一 「誠実であること」だって。自分に対して正直で、本当にそう考えていれば、その気持ちが言葉から伝わるはずだと。

酒井 心に沁みますね。でも、難しいことです。