今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!プチ鹿島政治コラム集』(プチ鹿島:著/文藝春秋)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

あなたの「政治」の教科書になるかも

この本はとても大事なことを伝えているのでぜひ読んでほしい。

右か左か無関心、政治に対してはこのポジショニングしかないのだろうか。ポジショニングを決めて思考停止に陥ったり、敵対する思想を嘲笑う前に、もっと「検証」や「前提整理」や「検討」が必要だろう。自分で考えてもよくわからないという不安定な状態を「楽しむ」ことができたなら、政治ほどうってつけの素材はない。では楽しむにはどうしたらいいか。その答えが本書にある。

著者のプチ鹿島は、時間がないみなさんのかわりに新聞14紙を購読し、各紙の情報からいまなにが行われているかを読みとく、読み比べの達人だ。いわば、右でも左でもない「離」。ちょっと離れたところからミーハーに「これってどういうこと?」という興味本位で政局を眺める。

たとえば「先日は(岸田首相が)アベノマスクの廃棄を発表しただけで英断のような雰囲気になった。とくに自分では何もしていないのにゆらゆらと(支持率が)アガっていくこの感じ。まるで風船おじさんである」、離れているから言える「風船おじさん」!

しかしこのタイミングで野党批判が売りのタブロイド紙が岸田批判をはじめたあたりから、安倍元首相にドライな岸田政権が野党の役割さえ果たしており、野党の存在感はさらに薄まっていると喝破する。

そして、「ブレることにブレない」首相はもしかしたらその時の機運だけで決定していくので、どのような方向転換もあり得る、もしかしたら「本当は怖い岸田政権」なのかも、と歴代首相の残像から類推する。あくまで「政局」の人間模様から見えてくる「政治」という切り口がほかにない面白さだ。

こういう教科書もあっていい! 公文書さえ残されないこの時代に、我々が読める公文書はこの一冊である。