気づけなかった「自分の本音」を見つける

本書に登場するミキさんという女性が、その典型的なタイプです。仕事ができて感じもよく、周りからはいい人だと思われている。でも本人は孤独感と生きづらさを抱え、不眠症に悩んでいます。そしてミキさん自身、「自分の本音」がわからなくなっている。周囲にサービスしすぎるからです。ミキさんのような人は、けっこう多いのではないでしょうか。

そんな時代だからこそ、もっと「自分」に対して関心を持ってもらいたい。そのための第一歩として本書で提案してみたのが、「心に補助線を引く」ことです。

算数で習ったと思いますが、複雑そうに見える図形も、補助線を引くことでたとえば三角形と四角形の組み合わせだとわかります。心も同じで、「自分はこういう人間だろう」と思っていても、補助線を引いてみると「そうじゃない自分」もいることが見えてくる。

本書にも出てくる「馬とジョッキー」の喩えで言うと、ジョッキーは自分の心をコントロールしようとする部分。馬はコントロールされる部分であるし、コントロールが利かない部分とも言えます。たとえばジョッキーは「今日も前向きに仕事をがんばろう」と思っているのに、馬は「会社に行きたくない」と思っている。そんなふうに相反する2つの部分が綱引きをするのが人間の心です。

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』 (新潮社 1760円)