臨床心理士として働く傍ら、多くの著書を執筆している東畑開人さん。『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』で第19回大佛次郎論壇賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020を受賞。東畑さんいわく、今の日本は「ひとりぼっち」になりやすく、人とのつながりがもちにくいとのこと。今注目を集める著者が描く、複雑な人生を生きやすくするための「こころの補助線」とは。(構成◎篠藤ゆり 撮影◎大河内 禎)
最近の日本は「自己責任」の圧が強い
僕は臨床心理士として、カウンセリングルームを開いています。心理士と精神科医の違いをひとことでいうと、精神科医は薬で治療をするけれど、心理士は薬を使わない。そのかわり、クライエントと長時間話します。
たとえばある方が、「夜、眠れない」と訴えたとします。その背景にあるさまざまな事情や、個人が辿ってきた歴史をじっくり伺い、整理をして「どうしていこうか」を一緒に考える。そういう仕事。
この本の前提にもなっていますが、カウンセリングを通して感じるのは、今の日本は「ひとりぼっち」になりやすい社会ということです。かつてのような共同体が力を失った今、人とどうつながりをつくっていけばいいのか、みんなわからなくなっている。そして他者が怖い存在のように感じやすくなっているようです。
他者とは本来、何をするかわからない存在です。そういう相手と、「どのくらい頼っていいのか」などを少しずつ試しながら、距離を縮めていく。その繰り返しで人間関係が築かれていきます。ときには傷つけられたり、傷つけたりすることもあるかもしれません。
ところが昨今は、「人に迷惑をかけてはいけない」と過剰に考えがちです。そのため、心を許せる人間関係がつくりにくい。しかも「自己責任」の圧力が強く、教育現場でも社会でも、人に迷惑をかけず自分をしっかり管理できる人間になろう、というメッセージがあふれています。そして自立すればするほど、人とのつながり方がわからなくなる……という悪循環に陥りがちです。