若者たちを育てる裏方にまわって
そんな木村にとって、令和になってから2年ぶり2作目の連ドラが、『未来への10カウント』。役柄は高校ボクシング部のコーチ役だ。平成期の木村の連ドラは常に本人がヒーローに設定されていたが、今回は若者たちを育てる裏方にまわっている。
ストーリーについては脚本を担当する福田靖氏と木村が話し合って決めたというから、この設定も本人が望んだはず。令和の自分が何を演じるべきなのか考え、辿り着いた役柄なのだろう。そう考えると、より興味深くこの作品を眺められるはずだ。
演じている主人公は桐沢祥吾。高校ボクシング界で頂点に立ち、オリンピック選手候補生として大学にスポーツ推薦で入ったが、網膜剥離になり、引退を余儀なくされた。
大学卒業後は高校の公民の教師になり、史織(波瑠)という女性と出会って結婚。挫折を乗り越え、幸せになったが、1年後に史織が乳がんを患う。その半年後に「ごめんね」と言い残して逝ってしまう。
傷ついた桐沢は教壇に立てなくなり、焼き鳥屋「大将」を開く。史織が焼き鳥を好んで食べていたからだ。店は成功し、18年続いていた。だが、コロナ禍で潰れてしまった。
悲運続き。桐沢はさすがに人生が嫌になり、「もう、いつ死んだっていい」と、厭世的になる。
木村がここまで後ろ向きのセリフを口にする連ドラは平成期にはなかった。新領域に挑もうとしているのがうかがえる。
そんな桐沢を母校・松葉台高ボクシング部元監督である芦屋(柄本明)が心配し、部のコーチに据えた。桐沢は行きがかり上、政治・経済の非常勤講師にも就任する。
芦屋は新たな生きがいを見つけさせることによって、桐沢を再生させようとした。それは狙い通りになる。桐沢は部員たちの「強くなりたい」という夢をかなえるため、真剣になる。