49歳になった令和の木村だからこそ
もちろん令和のドラマらしさもふんだんにある。例えば第3話。元妻の母親に暴力を振るう今宮智明(袴田吉彦)を撃退したいと願った部員の水野あかり(山田杏奈)は桐沢に対し「ケンカに勝てる方法を教えてください」と頼み込む。
桐沢は考えた末、親友でボクシングジムを経営する甲斐誠一郎(安田顕)に水野を預けた。甲斐は水野にボディブローを教える。腹に効くパンチである。
それを知ったボクシング部顧問の正教員・折原葵(満島ひかり)は水野に向かって「手を出してはダメ!」と戒めたが、相手に明らかな非があろうが、やられっぱなしでいろというのは平成期までの考え方だろう。桐沢は「武器を持つってことはいいことじゃないかな」と持論を語った。問題は武器の使い方だろう。
桐沢のバイトをピザのデリバリーにしたのは技アリだった。折原らはピザを頼めば簡単に桐沢を呼び出せる。桐沢側も同じ。部員の江戸川蓮(櫻井海音)が不良に監禁されると、配達を装って現場に行き、救出した。まるで「どこでもドア」だ。
ラブロマンス色もある。8歳の男の子がいるシングルマザーの折原は桐沢が好きでたまらない。桐沢が大場からクビを宣言されると、あの手この手で復帰させた。
けれど桐沢はまだ史織を忘れられない。なにより、松葉台高を去る可能性もある。史織の兄・井村和樹(石黒賢)から、また焼き鳥屋を開かないかと声を掛けられている。桐沢は「少し考えさせてください」と答えており、その気はあるようだ。
迷うのは分かる。高校時代の後輩である大場に居丈高な態度をとられたり、正教員たちに見下されて不快な思いにさせられたりするより、一国一城の主に戻ったほうがストレスが溜まらないだろう。
半面、すっかり桐沢を慕うようになった部員たちがそれを許してくれるかどうか。
西条が抱える問題もある。脳内の血管にコブが見つかり、医師からボクシングをやめるよう伝えられた。桐沢が網膜剥離と診断されたときと状況は同じだ。
桐沢は西条にどう言ってボクシングをあきらめさせ、未来への希望を持たせるのか。49歳になった令和の木村だからこそ出来るシーンになるだろう。