自身の行いを悔い、妻・八重(新垣結衣)に励まされる義時。この後八重は帰らぬ人となる(写真提供:NHK 以下すべて)

若い世代にも人気の理由は

三谷幸喜氏(60)が脚本を書いているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が高い人気を保ち続けている。個人視聴率データを見ると、これまで時代劇に関心が薄かった若い視聴者にも歓迎されている。

この状況は故・深作欣二監督による実録映画『仁義なき戦いシリーズ』(1973~74年)の登場時と似ている。この映画は様式美を重んじる仁侠映画に若者が背を向け始めた中で封切られ、拍手喝采を浴びた。クエンティン・タランティーノ監督(59)や北野武監督(75)ら国内外の映画人に強い影響を与えた歴史的名作である。

時代劇もこれまでは様式美が重んじられてきた。例えば引退した滝沢秀明さん(40)が2005年の大河『義経』で演じた源義経は勇敢で義に篤く、情け深かった。故・高倉健さんらが演じた仁侠映画のヒーローが弱者を庇い、恩人のために命懸けになったのと近い。ともに美しい人間たちのドラマだった。

一方、『鎌倉殿――』で菅田将暉(29)が扮した義経はわがままで残虐。日本人が長く愛してきた義経像と違う。だが、『吾妻鏡』などの史書を見ると、どうやら実像は菅田版のほうが近い。

実録映画の登場人物たちも身勝手で他者に冷たかった。もっとも、やはり現実に近かった。健さんたちが主人公を演じた仁侠映画はほとんどが創作だった一方、実録映画はノンフィクション小説が下地になっていたからである。