6月5日放送の第22回『義時の生きる道』の一場面。母を失った金剛を抱く義時

現代劇感覚で楽しめるのが三谷大河

八重は第21話で川に流されて亡くなった。この部分は三谷氏の創作。そもそも八重と義時が結婚したと記されている史書はない。三谷氏は史書を重んじている一方、史書で分からない部分は当時の状況を基に推理している。

義時の最初の結婚はナゾに包まれている。のちに北条泰時(坂口健太郎)となる男児・金剛(森優理斗)の母親・阿波局は素性が分かっていない。ただし、この女性が八重ではないかと見ている歴史学者もいる。三谷氏もそう読んだ訳だ。根拠のない創作ではない。

三谷氏の大河は2004年の『新選組!』、2016年の『真田丸』に次ぐ。過去の2作品も快作だったものの、それ以上に面白く、分かりやすい。鎌倉幕府成立までのキーパーソンやエピソードは数え切れないものの、それを思い切って絞り込み、人間ドラマに徹していることが功を奏している。

動乱の時代を描いていながら、合戦シーンは少なく、言葉も平易。だから、時代劇アレルギーのある人にも受け入れられる。人間の姿はいつの世もそう大きく違わないから、三谷大河は現代劇感覚で楽しめる。これが人気の最大の理由にほかならない。

これまでは主人公なのに義時の登場が少なめだった。史実に基づくと、近く頼朝が他界するので、おのずとシーンは増える。ただし、これまでの義時とはキャラクターが変貌する。三谷氏が放送前から予告していた通り、ダークヒーローになる。

既にその片鱗は見せている。奧州平泉(岩手県南西部)での落ち着いた生活を望んでいた義経に対し、あえて石橋静河(27)が演じた愛妾・静御前の哀れな身の上を話し、頼朝への怒りを沸き立たせた。これが、山本浩司(47)が扮した藤原泰衡に義経が襲われる理由となった。義時の計略だ。

今後の義時は源氏から北条家に権力を奪い取るため、どんどん人が悪くなるはず。片岡愛之助(50)が演じた兄の北条宗時は第5話で暗殺される前、「板東武者の世をつくる、そのテッペンに北条が立つ」と夢を語っていたが、それは義時によって実現する。代わりに義時は頼朝化する。

最終的な真の勝者はいないはずだ。義時は敵と戦い、身内ともいがみ合う。平穏な時は来ない。頼朝没後に権力が強まる政子も同じ。長男で頼朝の後を継ぐ源頼家(金子大地)と反目し、父親の北条時政(坂東彌十郎)とも対立する。

おそらく三谷氏が描こうとしているのは、共生という発想がなかった時代を生きる人々の不幸だろう。