中江 松井さん、「え?」って顔を上げて、「僕、中江さんに4曲書いていますよね」って、おっしゃった。私もビックリでした。松井さんは3000曲以上もの歌詞を書いていらっしゃるので、未発表曲を含めたった4曲だけお世話になった私のことなんて覚えてないに違いないと思っていたので。

松井 もちろん、覚えていますよ。中江さんの声はずっと心に残っていたし、その後のご活躍ぶりも拝見していますしね。

中江 そのときの《再会》がとても印象的だったので、その約1年後に『残りものには、過去がある』という小説を出版したとき、松井さんに送らせていただきました。そうしたら、感想を詩の形で送ってくださって。

松井 僕は作詞家だから、詩で感想を送るのがいいだろうと思って。

中江 本当に嬉しかったです。「自分の書いた小説が、こんなふうに詩で表現されるのか」って。それで、その次に書いた小説『トランスファー』を出版するときも、本の帯に掲載する詩を書いていただき、「もう、歌はやらないの?」って聞かれて。その「名前のない海」という詩にオリジナル曲をつけていらして、私がゲストで参加することになっていたご自分のトークショーで、「これを歌ってね」と。これはもう逃げられない(笑)。覚悟を決めて歌うしかないんだ、と。それまでは、自分がもう1度歌うなんてまったく考えてもいなかったのに、松井さんのひとことが、私が歌を再開するきっかけになったんですよ。

レコーディング中に談笑する中江さんと松井さん(写真提供:中江有里さん)