いくつになっても、《今の自分》にふさわしい歌を

松井 前回の『Porte de Voix』がカバーアルバムだったのに対し、今回の『Impression』は全曲オリジナルのフルアルバム。プロデュースした僕が言うのもなんだけど、歌手・中江有里の再スタートにふさわしい1枚になったんじゃないのかな。

中江 1曲だけ、私が18歳のときに歌った曲をセルフカバーしたのですが、松井さんが「今の自分で歌ってみて」と、おっしゃった。不思議なもので、この曲のメロディが流れると、つい18歳のときのままで歌おうとしちゃうんですよ。30年近くたっても、当時の自分がいまだに自分の中に残っていたのだと驚きました。そこからずっと、「今の自分って、いったい何なんだろう?」と考えながら、他の曲にも向き合っていきました。

松井 僕が今回のアルバムで表現したかったのは、いくつになっても、日々、新しい自分に出会っていく女性の姿です。昭和の時代の女性と言えば、ある意味、結婚が人生のピーク。それ以降は、妻として母として家族や社会を支える裏方のような立場で、残りの人生を過ごしていく人が大半だった。それが、令和の今は、女優さんでも主婦の方でも、人生の中でひと山もふた山も経験した女性が表舞台でどんどん活躍している。一時期、僕が通信作詞講座の講師をしていたときも、「子どもの手が離れたので、若い頃から興味があった作詞を勉強してみたい」と受講される主婦の方が大勢いらして。大人の女性たちのパワーを実感させられましたね。

中江 いまどきの女性は、いくつになっても元気ですから。それこそ、『婦人公論』の読者世代もそうですし。

松井 僕ら、昭和に生まれ育った人間からすれば、いい意味で驚きだけど、女性が生まれてから死ぬまでの間で、多種多様な人生展開が広がっていく時代になっている。だからこそ、自分が生きていく意味を、最後まで問い続けていく必要がある。毎日がスタートラインというのかな。そんな女性たちにとっての応援歌が、今の中江さんにふさわしい歌なのだと思いながら、今回のアルバムをつくっていったんですよ。

マルチな活動をする松井さんの作品(写真提供:松井五郎さん)