論語と算盤

著◎渋沢栄一
角川ソフィア文庫 760円

新1万円札の顔、賛否両論ですが

昭和2(1927)年に忠誠堂から初版が発売された、日本資本主義の父によるこの古典ほど近年、話題になったものは少ない。2018年4月には日本ハムファイターズの栗山監督が『育てる力栗山英樹「論語と算盤」の教え』を出版、〈大谷翔平も、中田翔も覚醒した!「ファイターズの若手育成に使った渋沢栄一の人生訓」〉として話題になった。

次いで昨年のプロ野球ドラフト会議で、中日から1位指名を受けた大阪桐蔭高校の根尾昂あきら内野手が、愛読書として『論語と算盤』をあげた。とどめは4月に新1万円札の肖像に渋沢栄一が決まり、ソフィア文庫は1万部を増刷、累計11万部を突破した。

競争による格差拡大などから、資本主義は利益第一のイメージも強く、渋沢が1万円札の顔になることを批判する人もいる。が、渋沢の経営哲学は金儲け第一主義とはかけ離れている。人々が日夜勉励して競争することで生まれる貧富の差は〈自然の成り行き〉としつつ、私企業の利益で国富を増進させたうえで、それを社会に還元することで道徳と経済を合一すると説いた。

〈正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ〉。この精神の正しさは、渋沢が設立に関わった日本初の銀行「第一国立銀行」をはじめとした500を超える企業のうち、東京ガス、東洋紡、王子製紙、帝国ホテルなど4割も現存することが証明している。とはいえ、道理のない富も残るゆえ、本書はいつまでも輝くのだろう。

幕末は一農夫だった渋沢が、いかに逆境に負けず、成功にも驕らず、明治最大の経済人になり、教育や社会事業でも活躍したかは、城山三郎の評伝『雄気堂々』を読むとよくわかる。