中学時代、英語部で演じた『浦島太郎』より(1951年頃)(写真提供:伊東さん)

前に伺ったことで、雨の日に伊東さんが早稲田大学の友達と、二代目(尾上)松緑さんを歌舞伎座の楽屋に訪ねる話がとても好き。歌舞伎の世界ものどかで鷹揚で、良き時代だったのだなあ、と思う。

――まあ、私は学生じゃなくて、東大と早稲田の生協でアルバイトをしていたんです。詰襟の左右に東大の銀杏と、早稲田のWのバッジとを二つ付けて(笑)。両方で働いてましたからね。

そのころ早稲田の落研のリーダーだった奴と友達になって、一緒に落語をネタにした台本を作ってね、『弓張提灯』というタイトルの。

無謀にも松緑さんに見てもらおう、となって雨の日にびしょびしょになりながら歌舞伎座の楽屋口まで行った。そこで口番さんに追い返されそうになったら、いいタイミングで松緑さんが楽屋入りしてきて、「歌舞伎が学生さん大事にしなくてどうすんだよ、さあ、お上がんなさい」って、楽屋で台本読んでくれて、「おお、女形も出るのか」。

で、鶴之助(のちの中村富十郎)さん呼んで、「ここのところ、ちょっとやってみせてやれ」って。こんなこと、何百万も出さなきゃできませんよ。で、「観てくかい?」って、『一本刀土俵入』を私たちに観せてくれましたよ。絶品でしたね。

松緑さんにはその後、この世界に入ってから再会するんです。『騎馬奉行』っていう時代劇を撮ってるときに、よみうりランドのセットの化粧室で。「実はこれこれこういうわけでお訪ねしたことが」って言ったら、「おお、あのときの……」って、憶えててくれましてね、嬉しかったです。