一世一代の賭けに出る

スタさんは初稿を3日半で書き上げると、知り合いのプロデューサーの意見を取り入れ

ながらストーリーを調整していった。ここでスタさんは俳優ではなく、脚本家としての才能を発揮する。短時間で改稿を進め、第2稿、第3稿と完成度を上げていった。

脚本は業界で評判となり、遂に大手プロダクションから買い取りの話が舞い込んでくる。それは母の占い通り、脚本家として認められた瞬間だった。しかし……!

プロダクション側は脚本を評価したのであって、俳優としてのスタさんは認めていなかった。『ロッキー』もスタさん主演ではなく、有名スターを使って映画化する方向で動いていたのだ。そしてスタさんの夢は脚本家ではなく俳優としての成功であり、とりわけロッキー役への情熱は強かった。

悩み抜いた末に、スタさんは一世一代の賭けに出る。冒頭に引用したように「主演はオレ」を絶対条件にしたのだ。プロダクション側はスタさんを説得しようとドンドン金を積んだ。

映画「ロッキー」でスタローンが駆けあがったフィラデルフィア美術館前の階段。通称”ロッキーステップ”(写真提供:Photo AC)

見たこともない大金を前に、さらにスタさんは悩みまくった。ここで首を縦に振るだけで、莫大な報酬が懐に転がり込む。ハリウッドには元俳優の監督や脚本家が大勢いるし、こういう話は決して珍しいことではない。この進路を選べば、少なくとも数年は安定した暮らしが待っているだろう。

それでもスタさんは、自分を貫くことを決めた。スタさんの頑固さに、プロダクション側はとうとう根負け。スタさん主演での制作を認めたのである。しかし……!