ボクシング史に残る奇跡を目撃、そして大奮起

その日、スタさんはとあるボクシングの試合を見に行った。伝説のボクサーであるモハメド・アリとチャック・ウェプナーの試合だ。

チャンピオンに君臨するアリと、決して有名とはいえないウェプナー。アリの勝利は確実だった。

ところがどっこい、ウェプナーはド根性で15Rを戦い抜き、なんとアリから一度ダウンを奪ったのだ。試合自体はTKOでアリの勝利となったが、観客はアリよりもウェプナーに喝采を送った。

他ならぬスタさんもその1人だった。

「おれたちは、精神力の勝利を目の当たりに見たんだ。それで、そいつに恋しちまったんだ」

スタさんは試合の興奮を1本の脚本にした。チンピラボクサーが、ひょんなことから世界チャンピオンへの挑戦権を手にして、全身全霊をかけてリングに上がる……それはスタさんが目撃したアリVSウェプナー戦をベースに、不器用な男女のラブストーリーをメインにした極上の人間ドラマであった。

言わずと知れた『ロッキー』(1976年)である。