寿美 あなたも大変だったわよね。朝から鮭のマリネとか、ナントカのローストとかが出てくる。料理学校で習うものだから、そういうものしか作れないの。オーブンの調子がわからず、いつまで待ってもできあがらなかったことも。でも、一言も文句は言われなかった。
高島 いや、僕はお酒を飲みながら食べるから、料理がゆっくり出てきても大文夫なんだよ。
寿美 そういうところが、あなたは本当にやさしいと思うの。不満を口にすることがないから、かえって私も頑張って料理の腕をあげよう、と思っちゃうのよね。
高島 僕があなたをえらいなと思うのは、服や靴などモノをむやみに欲しがらないこと。
寿美 ほとんど体形が変わらないから、大昔の服を着られる。これ、自慢なんです(笑)。だから新しく買う必要がないの。
高島 僕は誕生日や結婚記念日などの記念日に、プレゼントを贈るとか食事に行くとか、そういうことはやらないけど、それであなたが怒ったことはないね。世間では「夫が記念日を忘れて、妻が怒って実家に帰った」なんて話を聞くこともあるのに。
寿美 普段から私への態度を通して気持ちを伝えてくれていたから。
高島 そういえばあなた、車の運転をやめていた時期があるんだよね。結婚前は「阪神道路をものすごいスピードで走る『寿美花代ナンバー』の車」がしょっちゅう目撃されるほど車好きだったんでしょ? それなのに僕が、「女性が車を運転するのはイヤだ。悪いけどやめてくれ」と言ったから。
寿美 だってそう言われたら、できませんよ。でも実は、車が欲しくて。家の近くのショールームに何度も一人で見に行って、「かっこいいな、乗りたいな」って。
高島 買ってとは一度も言われなかったよね。
寿美 でも、自力で獲得しました。
高島 フジテレビの『かくし芸大会』だっけ? 津軽三味線の隠し芸で特賞をもらったら、なんと賞品が自動車だった。あのときの喜びようときたら! これを無理に止めたら、大変なことになると思った。芸を磨いて見事獲得したんだから、文句は言えない、言っちゃあいけない、と自分に言い聞かせてねえ。
寿美 それまで20年以上も、乗りたい気持ちを抑え続けてきたんですから。
高島 おかげさまで移動のときはいつも、僕が後ろに乗せてもらって楽をしています。病院の送り迎えも全部お願いしていたし。いつも、ありがたいと感謝しているんだよ。
寿美 そうね。あなたの闘病中はとくに、車があって本当によかったとつくづく思いました。