いつも笑顔でいてくれたことは、覚えている


高島さんは、14年ほど前から不眠とアルコール依存に悩み、睡眠薬が手放せない状態で仕事を続けてきた。その後1998年に、うつ病を発症する。しかしながら寿美さんの献身的な介護による闘病を経て、薄紙をはがすように、少しずつ回復してきた。10年たった今、体調はほぼ百パーセントに近いところまで持ち直している。


 

高島 僕は女性問題での苦労はひとつもかけなかったけれど、お酒については、ずいぶん心配させちゃったね。

寿美 あなたは心の底からお酒が好きだったんでしょうね。家の中のお酒をすべて処分したのに、こっそり飲んでいた。何をやっているの、と悲しかったわ。それほどストレスのたまる仕事だったのでしょうけれども。

高島 近ごろ二人で軽く晩酌を楽しんでいると、この件で怒られることが多いよね。私はあのとき本当に頭にきたのよ、って。

寿美 絡み酒でごめんなさい、と言いながら。(笑)

高島 いや、本当に感謝しているんだ。うつになったとき、僕に代わってお金の管理を全部やってくれたんだよね。それまでは銀行の通帳を見たこともなかったのに。

寿美 手探りで一から覚えたの。私がやるしかありませんでしたから。

高島 たいしたものだと思うよ。うつが重かったころの記憶って霞がかかったようになっているんだけど、あなたがいつも笑顔でいてくれたことは、なんとなく覚えている。

寿美 泣き顔は見せないようにしていました。私が頑張れたのは、忠夫さんがそれまでずーっとやさしかったからなんですよ。積み重ねてきた夫婦の歴史が私に力を与えてくれたの。ときには「どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」と思ったこともあるけれど、あなたが病気と闘っているのだから、私も負けられない、と自分に言い聞かせてきたんです。

高島 介護する側までうつになることも多いのに。

寿美 私は強いから。「天使のような気持ちであなたに接しよう」と心の底から思っていたけれど、その半面、いつもそうできない自分を受け入れることもできたから大丈夫だったのかもしれない。

高島 こんなに強い人だとは思っていなかった。うつとの闘いを通して決定的に変わったのは、“高島商店”の主が僕からあなたになったことだな。

寿美 そうはいっても、精神的にはすっかり頼らせてもらっています。でも自分でやれることが増えて、自信がついたかもしれない。もう何が起きても怖くないわ。

高島 どうしましようね、奥さんがこんなにも強くなってしまって。(笑)