なんともいえない愛らしさ

フィッツジェラルド川国立公園は、塩分を多く含み地味の乏しい平原だ。荒れて寒々とした様子は、1836年、近辺をビーグル号で訪れたチャールズ・ダーウィンをして「これほどつまらない土地は二度と歩きたくない」という主旨のことを言わしめた。

フィッツジェラルド川国立公園の景観(写真:著者)

そのような環境は、多くの哺乳類にとって生きやすいはずもなく、事実、カンガルーやワラビーはほとんど生息していない。こんなところに本当にあの愛らしい生き物がいるのだろうかと心配になるほどだった。

しかし、ここはハニーポッサムの生息地として有名な場所なのである。条件の悪い荒れ地にしっかりと根を張り繁茂するオーストラリア特有の植物が花を咲かせ、蜜と花粉を提供するかぎり、ハニーポッサムは生きていける。

ただし、普通に生息地の茂みを歩いても、すぐに出会えるわけではない。研究者たちは、いわゆるPFT(ピットフォールトラップ)、落とし穴を使って捕獲する方法をとっていた。

研究の一連の流れを見せてくれたのは、西オーストラリアの名門マードック大学でハニーポッサムを研究していた大学院生ヴィー・サファーさんだった。落とし穴とはいっても、いちいちゼロから掘るのではなく、地面に埋め込まれた円筒形の容器の蓋を開閉することで簡単にセットアップできるようになっていた。

夕方にそれを数百箇所、仕掛けた。翌朝、まだ日が昇らないうちから起き出して、落とし穴を次々と回った。10箇所に1頭くらいの割合で、ハニーポッサムが落ち込んでいた。

早朝はハニーポッサムにとって一日の活動を終える時期なので、たいていの個体は落とし穴の中で眠たそうにしていた。その丸まった姿は、なんともいえない愛らしさだ。

ピットフォールトラップに落ちた個体(写真:著者)