「ありそうで、なさそうな」不思議な絵

ヴィーさんの調査は、口のまわりについている花粉を採集して花の種類を同定する、というものだ。このあたりではドライアンドラやバンクシアという種類の植物を好むという。

花粉の同定は研究室に戻ってから顕微鏡で見て行うので、体重や体調など基本的な測定をしてからまた野に放す。

ぼくが出会った個体は小さくて体長4センチ、大きくて7センチで、体長と同じくらいの長さの尻尾があった。尻尾には、体を支えられるほどしっかりした筋力があり、体重測定は尻尾を引っ掛けて行った。体重はだいたい6グラムから12グラムだった。

愛らしいハニーポッサムの姿(写真:著者)

落とし穴の中にいた時間によってはエネルギー不足に陥っている可能性があるので、放す前には必ずハチミツを薄めたものを舐めさせた。

元気なやつは、さっと草陰に消えていくが、眠たそうなやつは、よろよろと手近な草の茎を登り、黄色いドライアンドラの花びらに顔を埋めることがあった。そしてそのまま眠たそうに目を細めた。なんとも愛らしく、のどかな光景だった。

ドライアンドラは、日本にも切り花として輸出されている黄色い花なので知っている人も多いかもしれない。一年のどの時期にも花が咲くそうで、ハニーポッサムの「主食」のひとつだ。

花弁に顔を埋めながら、きっと美味しい夢を見ていたのだろう。花と哺乳類の共生。なんだか「ありそうで、なさそうな」不思議な絵だった。

実をいえば、哺乳類の中でも、コウモリ類の中には、蜜を吸い、花粉を食べるものが多くいるのだが、地上性の哺乳類の中で、花蜜・花粉にかくも依存している種は、ハニーポッサム以外に知られていないという。蜜は高カロリー食で多くの生き物が利用するけれど、ハニーポッサムの場合、花粉も効率よく消化できてタンパク源にできる。

ハチミツを舐めさせる(写真:著者)