常軌を逸した大きさの睾丸を持つハニーポッサム(イラスト:『カラー版-へんてこな生き物-世界のふしぎを巡る旅』より)
かわいかったり、奇妙だったり、どこかひねくれていたり。世界には私たちの常識を軽く超える「へんてこ」な生き物がたくさんいます。作家・川端裕人さんは、30年以上にわたり研究者やナチュラリストと共に活動し、そうした生き物と出会っては多くの写真を撮影してきました。その中でも印象的すぎる「へんてこな生き物」をご紹介。今回は西オーストラリア南西部のごく限られた地域にだけ生息する有袋類、ハニーポッサムです。

神さまが愛玩用に作ったかのようなハニーポッサム

体長4センチ、体重10グラムと小柄で、シマリスのような縞模様がうっすらと入った体。つぶらな瞳とちょっとユーモラスな細長い口。自分の体とそれほど大きさの変わらない花に顔を埋めて、蜜を吸い花粉を食べる。

まるで神さまが愛玩用に作ったかのようなかわいらしい小動物。それが、ハニーポッサムだ。

西オーストラリア南西部のごく限られた地域にだけ生息する有袋類。つまり、カンガルーやワラビーなどの仲間である。哺乳類の中でも、お腹の袋で子育てをする特別なグループに属する。

正式な和名はハニーポッサムをそのまま和訳したようなフクロミツスイ。その名からは「蜜を吸う」ように思われるが、それだけでなく花粉も主食にするという、哺乳類界では珍しい驚くべき性質を持っている。

ぼくが彼らのことを知ったのは、1990年代、西オーストラリア州の州都パースのYMCAでのことだった。

当時、広大で変化に富んだ西オーストラリアに魅せられており、頻繁に訪ねていた。安価で定宿にしていたYMCAで、国際電話をかけるために電話ブースに入った時、壁に張られたポスターに目がいった。西オーストラリア州の動植物をコラージュしたもので、その中に、花に顔を埋めた愛らしい小動物の姿があった。

その姿に惹かれてやまず、帰国後、研究者と連絡をとった。西オーストラリア州南西部にあるフィッツジェラルド川国立公園という場所で、ハニーポッサムの研究をしているチームがあるという。そして、半年後、再渡航してそのフィールドを訪ねたのだった。