系統的にゾウやハイラックスに近いというのも納得

やがて別の角度から確認しているスタッフより無線が入り、人が動き始めた。入り江の中にマナティーが入ったのを確認できたので、出入り口になっている部分を封鎖して捕獲するという。

『カラー版-へんてこな生き物-世界のふしぎを巡る旅』(著:川端裕人/中公新書ラクレ)

湖にいるのは幼い頃に母親を密猟で殺されたり、漁網で混獲されて衰弱するなどして、保護が必要だった個体で、いずれは野生に戻されることになっている。

湖は、野生の生息地に放流するまでの「半野生」とでもいうべき環境だ。そして、野生復帰の事前評価のために、一度捕獲して健康状態を確かめるのがこの日のミッションだった。

封鎖した入り江の中で、大勢の人が網を持ち、マナティーがいると思われる部分を囲い込んでいく。何度か繰り返すうちに、マナティーがやっと網に入り、そのまま陸に上げられた。

【写真】アマゾンマナティーを網で囲い込み、捕獲する(写真:著者)

ぼくにとってはじめてのアマゾンマナティーは、「幻」からいきなり現実になった。それも圧倒的な質量感を持って。

でっぷりとした巨体だ。陸に上げられて大あばれするかと思いきや、まったく動かない。それでも、よくよく見ると小さくつぶらな目を開け閉めしたり、鼻の穴の蓋をパカッとあけて呼吸をしたりしている。

顔つきは、なんというか、まず最初に思ったのは「イヌ顔」だ。しかし、口を伸ばすような動作をしたとたん、別の印象が現れる。それは、「鼻が短いゾウ」だ。

系統的には、ゾウやハイラックスに近いというのだが、それも納得できる。トラックの荷台に載せて移動した検査小屋で、まず吊り下げた状態で体重を量った。161.5キロとかなりの重量だった。

とはいえ、大人のオスでは飼育下で300キロ超えもあるそうだから、まだまだワカモノだ。

この時点で、腹側にある白い模様が見えて、個体識別できた。2006年に保護された9歳のオスだという。体長は219センチと年齢相応。それ以外にも見た目の健康状態はよいと、獣医さんは満足気だった。さらに、尿と血液のサンプルをとって、健康チェックは終了した。