その場から動けなくなった
ニュージーランドの南島と周囲の島々だけで繁殖しており、その数は成鳥が5500から7000くらいといわれている。そして、ぼくが訪ねたモエラキ湖周辺の森では、巣の数はせいぜい数十だった。
森の中を何も知らずにさまよっても出会える可能性は薄いが、公に開かれているビーチで身を隠して待っていれば、必ず会うことができた。
それどころか、ものすごく近距離で出会うこともしばしばだった。例えば、昼食のサンドウィッチを食べながら、ふと振り向くと、そこにいる、など。
まじまじと見ると、本当に美しいペンギンだ。
体長60センチくらいで、ペンギンとしてはやや小柄。最大の特徴は目の上の部分の羽根飾りで、淡い金色、あるいは光沢のあるクリーム色とでもいうのだろうか、非常に上品な色づかいのものが、すーっとひと筆書きしたように後頭部へ抜けている。赤いくちばしと深く赤い目が呼応するように配置され、頬には白い横線が何本も入っていた。
砂浜を通らずに、川を使って、森の巣との間を行き来するものもいた。川沿いの遊歩道を歩いていて、川の中ほどの小さな島にたたずむ姿と出会った時には、その意外性と相まって、その場から動けなくなった。
こういった一連の経験は、その後、ぼくがニュージーランド領亜南極や、南米のチリやアルゼンチン、フォークランド諸島にペンギンに会いに行く、一番大きなきっかけとなるものだった。