バイオロギングにより、謎に包まれていた海での行動が明らかに

21世紀になってからのフィヨルドランドペンギンをめぐる知見は、2つの大きな分野でもたらされた。他の多くのフィールドの動物学と同じように、ひとつはゲノム解析技術の発達、2つ目は小型のセンサーを取り付けてデータを取得するいわゆるバイオロギングの手法の成熟だ。

2014年から、ニュージーランド・オタゴ大学のトマス・マターンさんたちのチームが「タワキ・プロジェクト」という保全研究計画を続けており、前記の2つの分野で目ざましい成果を挙げつつある。

まず、DNAの解析から、フィヨルドランドペンギンの個体群の遺伝的な多様性が、現在の個体数の少なさにもかかわらずよく保存されていることがわかった。

これは、ニュージーランドで見つかった亜化石などの人類到来以前の標本(先史時代)、ヨーロッパ人の入植以降に捕獲されたここ数百年の標本(歴史時代)、現在生きている野生の個体(現代)をトータルで269個体も分析して結論したものだ。深い森で繁殖するためこれまで人の影響が限定的だったと考えられ、今後の保全についても希望が持てる知見となった。

また、バイオロギングの研究では、これまで謎に包まれていた海での行動が明らかになりつつある。

フィヨルドランドペンギンは、1年のうち、二度、長期間の採餌旅行に出る。営巣を終えた12月から換羽が始まる2月までの2カ月あまりの期間(営巣後・換羽前)と、2月末に換羽を終えてから7月に営巣を始めるまでの4カ月半の期間(換羽後・営巣前)だ。その間、どこにいるのか長年の謎だった。

そこで、マターンさんらは、まず営巣を終えた17羽に小型発信器を装着して人工衛星で追跡した結果を報告した。それによると営巣地から片道で最大2500キロもの距離を移動し、換羽の前に営巣地近く(必ずしも営巣地ではない)に戻るまでの遊泳距離は最大6800キロにも達した。目的地は、オーストラリアのタスマニア島南の海域、あるいはそのさらに南側の「亜南極前線」に至る海域だ。

【写真】河から森に戻る途中で休憩するフィヨルドランドペンギン(写真:著者)

比較的短期間の「営巣後・換羽前」の採餌旅行として、ペンギン界でこれまでに知られている最長記録で(既存の研究として、マカロニペンギンは片道約900キロ、イワトビペンギンは片道約700キロだそうだ)、論文には「マラソンペンギンたち」(Marathon penguins)というタイトルが付けられた。

マターンさんらはさらに「換羽後・営巣前」のバイオロギング研究も行い、やはりタスマニア島からオーストラリア南岸にかけての広大な海域をトータルで6000キロにもおよぶ旅をすることもわかった。