かわいかったり、奇妙だったり、どこかひねくれていたり。世界には私たちの常識を軽く超える「へんてこ」な生き物がたくさんいます。作家・川端裕人さんは、30年以上にわたり研究者やナチュラリストと共に活動し、そうした生き物と出会っては多くの写真を撮影してきました。その中でも印象的すぎる「へんてこな生き物」をご紹介。今回はフィヨルドランドペンギンです。
森の中で見つけたペンギンの保育所
野生のペンギンの近くで幸せな時間を過ごしたことを突然思い出して、懐かしいようなやるせないような気分になることがある。
場所はニュージーランド南島の南西部。重たい鉛色の空の下、薄い霧が流れる1995年の9月。季節はまだ南半球の冬のうちだった。林床にしゃがみ込み、その場所で腐葉土に根を張ったかのようにじっとしていたぼくの網膜に映っていた光景。それが鮮やかな映像としてよみがえる。
大きく開いている樹冠の間隙に見えるのは、海に近い森の中から1本だけ高く突き出したマツ科の高木、リムーだ。霧の状態によってくっきりと見えたり、白く塗り込められたりするそれは、低い空に突き刺さった宇宙樹のようだ。
視線を下げていくと、ねじくれたナンキョクブナが樹冠部を形作っている。と同時に、木生のシダが幾本も、しっかりとした幹を黒く光らせながら佇んでいるのも目に入ってくる。さらに、林床には、かつて樹冠を満たしていたはずのブナの倒木が、たっぷりと水を吸い込み、朽ちかけた姿を晒している。そこに、その子たちはいた。
倒木のうろの中で濡れそぼり、綿羽を震わせながら、こちらを見ているペンギンのヒナたち! お互いにおしくらまんじゅうするようにひと塊になり、たった1羽だけいる成鳥に監視され、護られている。
フィヨルドランドペンギンは、ニュージーランドの南西部の森の中でだけ繁殖する「森のペンギン」だ。現地のマオリ族の言葉ではタワキ(Tawaki)と呼ばれる。その繁殖期の後半、彼らが作ったヒナの保育所(クレイシ)をぼくは森の中で見つけたのだった。