「同じ匂い」のする人と細く長いつきあいを

とはいえ、生来の「人嫌い」ではないのです。確かに、人づきあいはよくないけれど、もともと人は好き。ですから、まったく友だちがいないわけではないのです。小学校時代に1人、中学時代に1人、高校のときに1人と、その時々で「本音でつきあえる」と感じたほんのわずかな人とだけ友だちになりました。昔から、私はお世辞というものがうまく言えなくて、どんなときでも本音でしか話せないので、たまに相手を傷つけてしまうこともある。でも、本音でつきあえない人とは、二度と会うことはありません。お互いに通じあうものがあり、本当に信頼できる人としか、友だちにはなれないのです。

そのいい例が、75歳の史上最高齢で芥川賞を取った作家の黒田夏子さん。早稲田大学時代の同級生で、パッと見た瞬間に、「この人は私と同じ匂いがする」と、すぐにわかった。キザな言い方をすれば、「孤独の匂い」というのでしょうか。人間はひとりで生まれ、ひとりで死んでいくということがわかっている。自分と通じあう人の匂いをかぎ分けるのが、私は得意なんですよ。黒田さんとは、目的もなく一緒にお茶を飲んだり、たわいのない世間話をしたことはいっさいありません。私が知りたいのは、彼女が何を考えていて、何に興味を持っているかということだけ。当時から書くことが好きな人だったので、「同人誌をつくりたい」という彼女と一緒に同人誌に参加したりもしましたね。

大学を卒業した後も、細く長くのおつきあい。彼女は、家に電話を置かない仙人のような暮らしをしている人なので、時折、ハガキで連絡してきたり、「読んでくれ」と、突然、長い小説が送られてくることもある。何年も会わないときもあるけれど、いつ会っても、最初に会ったときとお互いにまったく変わらない。そういう関係こそが「友だち」だと、私は思っているのです。

本当に信頼できる人としか、友だちにはなれないのです。と語る下重暁子さん(撮影◎宮崎貢司)