心の鎧を脱いだら、人づきあいがラクに

思い返せば、若い頃の私は、心に鎧を着ていたのだと思います。人前で恥をかきたくない、自分の弱みを見せたくないという思いが強かったために、他人に心を開けない。人間って、誰もが自分のいいところだけを見せたいと思っていますよね。でも、いいところだけ見せていても、決して友情なんて育まれない。私は、その典型でした。

それが、70代後半を迎えた頃から、見事なほど、人づきあいがラクになったんです。きっかけは、2015年に『家族という病』を出版したこと。それまでは、自分の家族のことを書くのは絶対にイヤでした。私は、父にも母にも反抗してばかりの子どもだったし、他人の目には裕福で幸せそうに見えたわが家も、父の公職追放で実は経済的に大変で、家の中はめちゃくちゃ。だけど、そうした内情を決して他人には悟られたくなかった。「大変な苦労をしてきたんだね」って同情されるなんて、冗談じゃないって。だから、常に鎧を着て、人とつきあっていたんですね。

でも、あるとき、ふと気がついた。そうじゃない。私が裸になって、すべてをさらけ出して見せなければ、私が書いた本なんて誰も読んではくれないし、そもそも本を書く権利がない。もの書きというのは、自分をさらけ出す仕事ですから、恥をかけないなら、いっそこの仕事をやめたほうがいい。でも、若い頃から書く仕事が自己表現の方法で、一生書き続けていきたいと思っていたから、ここで勝負しなきゃダメだと勇気を出して、自分の家族のことを洗いざらい書くことに決めたのです。