つなぎ温泉神社参道入り口に
孔の空いた「つなぎ石」は置かれている
一時追われるように後退した義家は兵糧が尽き、木の実、山の獣などを集めて食物とした。その際、食べた動物の骨や肉片、植物の種などを山裾に投げ付けた。投げ捨てられたこれらのものは一夜にして一対の猫の形をした大きな石になり、義家の殺生を戒めたと伝えられている。
里人は猫の形をしたこの大石を「猫の霊」「猫石」と呼んで赤飯を供え、お祀りをしたという。この大石が温泉街の玄関口の両側にあったことから、客を招く「まねき猫」とも呼ばれたが、その後、道路の拡幅工事のため、片側は取り除かれ、今は道路の東側の大石だけが残っている。現在の高さ2メートル、幅3・5メートルの大石は猫の頭の部分だけで、往古には今の5倍もあったという。
つなぎ温泉は盛岡市の郊外、南部富士と讃えられる岩手山を望むダム湖・御所(ごしょ)湖畔にあり、ホテル、旅館、民宿などが点在する。御所湖に架かる繋大橋を渡り、温泉街の奥のつなぎ温泉神社に向かうと、左手に「猫石」があり、つなぎ温泉神社参道入り口に孔(あな)の空いた「つなぎ石」が置かれている。この石こそがつなぎ温泉の歴史を物語る遺跡である。
また、福島県石川郡石川町の「母畑(ぼばた)温泉」にも、源義家にまつわる同様な開湯伝説がある。