将来、あんなふうに強くいられるだろうか
「年の差フレンズ」というテーマを聞いて私が思い浮かべたのは、ケイコさんのことだった。
ケイコさんは今から17年前、私が40歳のときにイタリアのフィレンツェ大学付属語学コースで知り合った、17歳年上の留学生仲間だ。西洋の美術や歴史に造詣が深く、気取らずユーモアのある温かい人柄。若い学生に囲まれ、どこか悠々と孤独を楽しんでいる雰囲気が魅力的だった。
ケイコさんが公務員の仕事を早期退職し、学生時代からの夢だったイタリア留学を実行に移したのは57歳のとき。若くして夫に先立たれて以来、母親と二人暮らしをしていた彼女は、渡航を前に岐路に立たされていた。母親に深刻な病が発覚したのだ。
闘病中の母をおいていくことはできないと悩んだが、「1年や2年くらい、ひとりでも大丈夫。だから、あなたはやりたいことをやりなさい」との母の言葉に押され、留学を決意する。
帰国して数年後、長い介護の末に親を見送ってから、ケイコさんは「イタリアでの2年間があったから、私は母を恨まずに済んだ」とつぶやいた。
今、出会ったときのケイコさんと同じ年齢になった私は、まさに両親の介護の真っ只中。生活を振り回され、何かを見失いそうになるたびに、ケイコさんの言葉を思い出してふと立ち止まる。自分のことを後回しにせず、自分の人生を大切にすること。その重要さを、私は彼女の生き方から学んだ。
今もときどき、彼女の家で美味しい手料理をご馳走になる。70代になったケイコさんは今も凜として前を向き、社会問題に目を向けて障がい者支援のNPOなどにも関わっているのだ。自分も将来、あんなふうに強くいられるだろうか。ひとつのお手本として、彼女は常に前を歩んでくれている。
年上でも年下でも、年齢の離れた関係には、同世代とのつきあいにはない豊かな側面がある。今回は、そんな頼りになる年の差フレンズを持つ人たちの声を集めた。