四角より丸いチョコレートの方が甘い!?

次に視覚を検討しよう。食べ物の情報を最初に得る感覚が視覚であることは非常に多い。嗅覚が先に反応することもあるが、においが強くない食べ物であれば、最初にその色や形が目に入る。そして、こうした視覚情報も味に影響することを示す例がある。

『「美味しい」とは何か――食からひもとく美学入門』(著:源河 亨/中公新書)

 

まず、形に関する印象的なエピソードを紹介しよう。イギリスのお菓子メーカーであるキャドバリーは、2013年に「デイリーミルク」というチョコレートバーの形を変更した。以前は角張った形をしていたが、丸みを帯びたものになったのである。そうすると、「甘すぎる」「しつこい」「前の方がおいしかった」というクレームが寄せられたそうだ。

形を変えることで量が数グラム減ってはいたが、メーカーはチョコレートのレシピに変更はないと主張した。この例が示しているのは、形によって味が変わるということだ。丸い形の方がより甘く感じられてしまうのである(スペンス[2018] pp.85-86、ハーツ[2018]p.168)。

形だけでなく色も味に影響する。たとえば、ピンクに着色した液体と緑に着色した液体では、緑の方が糖分が10%多かったとしても、ピンクの方が甘く感じられる。また、オレンジ色のマウスウォッシュと青色のマウスウォッシュでは、たとえ有効成分の配合が同じでも、青の方がより渋く感じられるという(スペンス[2018]pp.81-82)。

さらに、色はにおいも変化させる。たとえば、チェリー、オレンジ、ライムのジュースを薄め、においだけでそれぞれを区別することは困難にしても、チェリーを赤色、オレンジジュースをオレンジ色、ライムを緑色に着色すると、においで区別できる確率が上がる(増田[2011]p.131)。私たちが普段経験する味の大半はにおいからできていたので、色によるにおいの変化は、そのまま味の変化ということになるだろう。