国際政治の悲劇を学ぶには

これら三人のうちで、読者の方が国際政治史を学ぶのに最も役に立つのは、ビスマルクである。ビスマルクは歴史上初めて、常に数十(もしくは数百)に分裂していたドイツ民族を統一した大政治家である。しかし彼は、単にドイツ統一という偉業を成し遂げただけの人ではなかった。彼は建国後のドイツを「欧州大陸の最強帝国」に育て上げて、19世紀後半の欧州外交を牛耳ったのである。

欧州諸国が何故、20世紀に悲惨な世界大戦を二度も惹き起こしたのかという事情も、19世紀後半期のビスマルク外交を理解しなければ分からない。20世紀前半期の国際政治の悲劇を理解するためには、ビスマルク外交の知識が必須なのである。

これら三人のうちで、現在の日本外交の苦境を理解するのに最も役に立つのは、ドゴールの外交思想と国家哲学である。ドゴールは1960年代から、「国際政治の構造が一極化したり二極化したりするのは不自然である。

一極構造や二極構造が長続きするわけがない。国際政治は必ず多極化し、バランス・オブ・パワー外交が復活する」と自信を持って予言していた。冷戦期の二極構造が1991年に終焉し、その後のアメリカの「国際構造の一極化」戦略が明らかに失敗してきたことを観察すると、ドゴール大統領の先見性に驚かされる。

ドゴールはさらに、「アメリカの保護に依存しようとする国は、”自国の運命を自分で決める”という責任感を失ってしまう。そのような国の意思決定能力は麻痺してしまう。そのような国家は、知的・精神的な不毛国家となるのだ」と述べていた。