2022年8月15日より夏休みに入った岸田文雄首相。同日、八重洲ブックセンター本店に立ち寄ると、『歴史に残る外交三賢人』(著:伊藤貫/中公新書ラクレ)などの書籍を購入したとされる。確かに2022年の年頭所感で、岸田首相は「新時代リアリズム外交」を政策方針の一つとして挙げているが、そもそもビスマルク、タレーラン、ドゴールら名だたる外交家らが実現した「リアリズム外交」とはどのようなもので、なぜ今の日本に必要とされるのだろうか――。
リアリスト外交家の教訓
『歴史に残る外交三賢人』は、過去三世紀間の国際政治史において重要な仕事を成し遂げた三人の外交家―ビスマルク、タレーラン、ドゴール―の思想と行動を説明することにより、リアリズム外交の実態を読者に理解していただくことを目的として書かれたものである。
リアリズム外交は、バランス・オブ・パワー外交(勢力均衡外交)とも呼ばれる。この外交のパターンは、紀元前5世紀にギリシャのトゥキュディデス将軍が「ペロポネソス戦記」を書いた時から現在まで、基本的に変わっていない。
古代ギリシャではアテネとスパルタが、お互いの覇権と勢力圏をバランスさせようとして激しく抗争していた。西欧中世期には、経済成長・人口増加・技術革新が停滞していたため、欧州のバランス・オブ・パワー抗争は一時的に鎮静化していた。
しかし16世紀後半~17世紀前半期になると、スペイン・オーストリア・オランダ・ドイツ・北イタリア等を支配する強盛なハプスブルク帝国が擡頭した。この帝国をカウンター・バランスするために、フランス・イギリス・(プロテスタント系の)ドイツ諸侯国・スウェーデン等が苛烈な「三十年戦争」を実行した。