自宅の2階にあるアトリエにて(撮影:本社写真部)
2022年8月20日の日テレ『世界一受けたい授業』にヨシタケシンスケさんがゲスト出演。お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんとの共著『その本は』(ポプラ社)が7月に発売され、話題となっているヨシタケさん。2013年に絵本作家としてデビューしたヨシタケさんが、子ども時代のトラウマから絵本作家になるまでの紆余曲折を語った『婦人公論』2017年12月12日号の記事を再配信します。


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絵本作家のヨシタケシンスケさんは、2013年、デビュー作『りんごかもしれない』で、MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞したのを皮切りに、その後もヒット作を連発し、時の人となっている。人気作家の胸のうちは──(構成=鈴木裕子 撮影=本社写真部)

「うちだけじゃないんだ」に助けられて

40歳(2013年)にデビューしたので、絵本作家としてはまだまだ新人です。それなのに、おかげさまでたくさんの人々に作品を読んでいただき、ありがたい限りですね。

人気の理由ですか? うーん、何だろう。僕はいつも「次回作は失敗作かもしれない」と思いながら描いているほうなので……。

2017年に、『もう ぬげない』という作品で、イタリアのボローニャ・ラガッツィ賞(「絵本のノーベル賞」と称される賞)の特別賞を受賞したのですが、現地の方がこう言ってくださいました。

『もうぬげない』 ブロンズ新社

「子どもは骨格的に頭が大きいものだから、服がひっかかって脱げなくなるのは、毎日世界中で起こっていること。でも、その現象をわざわざ絵本にしようとしたのはあなたが初めてだ(笑)」と。

 

 つまり、僕の作品は基本的に「あるある」ネタなんです。「あるある」話ってなぜか盛り上がりませんか? おそらくそれは、人間の動物的な本能が影響しているのではないかと、僕は睨んでいます。

敵か味方かを見分けるのに、自分と同じところがあるかどうかは大きな要素。だから、「あ、一緒だ」と感じると、安心するようにできているのだと思います。僕の絵本を読む方は、「自分に近いものを見つけた」と思ってくださっているのかもしれません。

僕は男の子2人の父なんですが、育児をしていて、「うちだけじゃないんだ」という思いにどんなに助けられたか。偉い先生に正論を言われるより、隣のお母さんに「うちの子も夜寝なくて大変なのよ~」と言われたほうが断然救われるんです。

若い時は人と違う自分でありたいと主張していたのに、子どもが生まれたとたん、みんなと一緒でありたいと願う。しかも子どもの成長の場合は、人と同じでありながら、そのうえでほかの子より少し秀でていてほしい。まあ、勝手なものですよね。(笑)

2017年に出したイラストエッセイ『ヨチヨチ父』では、父親から見た子育てを描いています。僕は生まれたばかりの子どもを見た時、「これは何だろう」と思いました。善悪とか損得といった二元論で語れないものだ、と。

『ヨチヨチ父 とまどう日々』赤ちゃんとママ社

だって損得で言うと、お父さんって何も得がないんです。好きで結婚した人に、「私、あなたより大事な人ができたから」と言われるわけで(笑)。それに「はい」としか言えないのがお父さん。でも、その損な状態に「幸せ」という名前を付けないと、先に進めない。
 
これまでとは違う物差しを少しずつ自分の中に組み立てていって、ある時それはそれで悪くないな、と思う。そんな父親の戸惑いと成長を描いたら、多くの反響をいただいて。とくに「心が軽くなりました」というお父さんの声は、嬉しいですね。