導き出されたヴィジュアル系の可能性

こうしたサウンドと音楽性、そしてメイクや衣装といったビジュアル面を含めたこのロックスタイルは、日本独自に発展していった。

BUCK-TICK「悪の華」が本場イギリス譲りのゴシックロックかといえば、それは違うのだが、黒服やゴシックイメージが同曲にはある。なぜならば、そういったイメージをBUCK-TICKが作りあげたからだ。

『惡の華 (2015年ミックス版)』(BUCK-TICK/ビクターエンタテインメント)

「悪の華」と並ぶ90年代のBUCK-TICKを代表する曲に「スピード」(1991年)があるが、こちらは比較的明るめのロックであるし、同じブリティッシュでもグラムロックの香りが強い。Xの「BLUE BLOOD」(1989年)は攻撃的なメロディックスピードメタルだが、同じアルバムに収録されている「CELEBRATION」はグラムロックだ。

このように同じアーティストがいろんなジャンルの楽曲をやっていることが、実に日本的でもあり、それがヴィジュアル系の可能性を導き出した節もある。

アップテンポでスピード感のある楽曲。激しめのギターリフで始まるが、歌に入ると淡々とした演奏になる。起伏の少ない平歌(ひらうた)はサビに向かって一気に盛り上がっていき、泣きメロのサビに突入、熱唱系ボーカルに変わる。そして流れるようにドラマチックなギターソロが……なんて、言葉にすると何の脈略もなく、詰め込みすぎているように思えるのだが、ものすごくヴィジュアル系っぽい楽曲の描写である。LUNA SEA「ROSIER」(1994年)はまさにそうした楽曲だ。

※本稿は、『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社新書)の一部を再編集したものです。


知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(著:冬将軍/星海社新書)

ヴィジュアル系とは音楽ジャンルを指す言葉ではない! 日本のロックシーンは「ヴィジュアル系」を軸に発展してきた、と言い切ってしまっても大袈裟ではない。本書では90年代にヴィジュアル系がどう誕生して、多くの人になぜ受け入れられ、なぜ世界がうらやむほどの「ジャパンカルチャー」となったのか、その独自の発展をバンドの世界に留まらず、ファッション、漫画などさまざまな分野を通して辿っていく。さあ、その深淵の闇へ、共に堕ちていこう!