9月号の書は「慈悲」です
あの世の人と愛のやりとりを
夏はお盆の季節。私の故郷の長崎では、新盆を迎えた遺族が8月15日に精霊船を曳いて練り歩き、極楽浄土へと送り出します。「精霊流し」というとしんみりしたイメージを抱く方もいるかもしれませんが、かけ声や鐘の音、爆竹が鳴り響き、かなりにぎやかです。
家族や大事な人と死別したら、皆さん、悲しみにくれると思います。でも、あの世に行けば病気もないし、悩みも苦しみもありません。明るくてのんきなところにいるので、ご安心を。いつまでも嘆き続けていると、かえって故人に心配をかけます。
私もこの歳になると、愛する人や身近な人をずいぶん亡くしてきました。いまや、あちら側の世界のほうがにぎやかなくらい。私は毎日お経をあげて亡くなった人たちを供養しながら、「もはや生老病死の恐れも不安もないのですから、どうか功徳を積んで、貴い御仏になる修行をなさってください」と慰め励まします。
それは、亡くなった方々への、私の愛です。そうすると、向こうからも愛が返ってきます。たとえば病を得たとき。それでも、前向きに日々を過ごすエネルギーを私に与えてくれるのです。
「慈悲」はもともと仏教用語で、他者をいつくしみ安楽を与える「慈」と、他者の苦に同情してこれを取り除こうとする思いやりを表す「悲」があわさった言葉だと言われています。日々、感謝を忘れずに「慈悲」の心で行動すると、あの世にいる愛する人も喜ぶはず。そして、きっと大きな愛を返してくれます。ですから、ときには泣いてもかまいませんが、涙を拭いたらにっこり笑って。
「慈悲深くあれ」と自分にかけ声をかけて、前を見て進んでくださいね。
●今月の書「慈悲」